日本における女子の高等教育進学率は、戦後から現在にかけて大きく向上してきた。特に大学進学率は、1950年代の数%から着実に上昇し、2021(令和3)年度には51.7%に達し、男子の58.1%に6.4%差と、同じ水準に近づいてきている(図1参照)。短大志向から4年制大学への移行も進み、女子の教育水準は大きく向上している。
一方で専攻分野には性別による偏りが見られ、女子は文系や福祉系に多く、理工系(STEM)分野への進学は少ない傾向にある。文部科学省の学科別データによると、各学科における女子の割合は、人文科学64.0%・教育59.1%・家政89.9%であるのに対し、理学28.3%・工学16.7%・医学38.2%にとどまっている(図2参照)。さらに、大学教員の性別格差も依然として大きく、女性教授の割合は全体の19.7%、学長は13.9%と少数である(※1)。加えて進学機会に関しては、地方と都市部の間で地域格差が存在することも課題である。ジェンダー教育の充実、理系分野への女性活躍支援、そして大学や社会全体の制度改革が求められている。
明治時代に創立され、日本の女子高等教育の基礎を築いた津田塾大学で学長を務める髙橋裕子さんに話を伺った。
※1:文部科学省「学校基本調査(大学・大学院)/職名別教員数」2024(令和6)年度
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
●津田塾大学のなりたち
津田塾大学は1900(明治33)年に女性の高等教育をめざす私塾「女子英学塾」として創立された。当時の日本は、従来の家制度(※2)により女性の教育は家政学が中心で、高等女学校においても良妻賢母の育成が推進されていた。創立者の津田梅子は、1871(明治4)年に最初の官費女子留学生の一人としてアメリカに派遣された。2度のアメリカ留学を経て、日本の女性にもリベラルアーツ教育が必要だと考え、当時の日本では先駆的だった私立の高等教育機関を創立し、少人数教育と高度な英語教育を軸にオールラウンドな女性の育成を推進した。現在は小平市津田町と渋谷区千駄ヶ谷にキャンパスがあり、2025(令和7)年で125周年を迎える。
※2:明治民法で規定された日本の家族制度。家長である戸主(家の一番年長の男性)に家族を統率する絶対的な権限を与える仕組みで1947(昭和22)年まで続いた。
●女子留学生のための奨学金制度を設立
2度目の渡米中に、自分に続く日本の女性のための奨学金制度(「日本婦人米国奨学金」委員会)を設立し、ファンドレイジング(※3)を展開。1890年代から1970年代までに25人の女性をアメリカに送り出した。津田の後継者となった星野あいや恵泉女学園の創立者である河井道などが、この奨学金で留学している。
※3:活動のための資金を個人、法人、政府などから集めること
女子英学塾開校当時の津田梅子(津田塾大学提供)
●第二次世界大戦をきっかけに理系分野を創設
第二次世界大戦時には、主軸である英語が敵性語となり志願者の減少を余儀なくされたが、学校存続のための選択として数学、物理化学を学ぶ理科を創設した。これは今日の数学科、情報科学科へと発展し、様々な分野で役立つ数学的思考力や応用力を養い、グローバルな情報社会において女性が活躍するための重要な学びの場となっている。
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大学本部のある小平キャンパス(津田塾大学提供)
活動の特徴
●女性に特化した学びの場の意義
同学では現在、「変革を担う女性の育成」をモットーとして掲げている。学長の髙橋裕子さんは「ジェンダーギャップが迷走する現代社会において、女子大学での4年間は常に女性が中心に置かれ、たくさんのロールモデルに出会うことができる。自分の人生のキャリアを模索しはじめる時期に、女性にフォーカスされ自分をエンパワーできることが、女子大学の意義だと思う」と力を込める。
星野あい記念図書館(津田塾大学提供)
津田梅子記念交流館(津田塾大学提供)
●データサイエンス・リテラシープログラムに注力
同学では定評のある英語教育に加え、「データサイエンス・リテラシープログラム」に力を入れている。文系・理系に関わらず、数理やデータ、AIなどを適切に理解し活用する能力を身につけることを目指し、文部科学省による「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定されている。
画像はイメージ
●津田塾大学 女性研究者支援センター
2008(平成20)年度文部科学省科学技術振興調整費の女性研究者支援モデル育成事業である「世代連携・理文融合による女性研究者支援」プログラムを推進するため、同年に女性研究者支援センターが設置された。女性研究者のプロジェクトや若手研究者の研究スタートアップなどを積極的に支援するとともに、世代連携と理文融合を図りながら次世代研究者を育成している。
女性研究者支援センター(津田塾大学提供)
目指す未来
先人たちのバトンを次世代につなぎ、女性の学びが社会の変革を起こすこと。
