2026.03.01
檜原村

東京の森から生まれた紙が
まちと森をつなぐ

TOKYO PAPER プロジェクト(檜原村木材産業協同組合/株式会社東京チェンソーズ)[2026年2月取材]

 日本の国土面積の約3分の2を森林が占めている。そのうち約4割を人工林が占め、人工林の約6割が樹齢50年生を超え、本格的な利用期を迎えている(※1)。東京都においても、森林面積は都域の約4割(約79,000ヘクタール)を占め、その約7割が西多摩地域を中心とした多摩地域に偏在する(※2)。特に奥多摩町や檜原村は、地域の大部分が森林に覆われ、木材供給に加え、二酸化炭素の吸収、水源涵養、土砂災害の防止など、都市の暮らしを支える重要な役割を担ってきた。また、都市部に近い森林として、環境教育や企業の社会貢献活動の場としても活用されている。多摩地域の森林の約6割はスギやヒノキの人工林で、全国平均を上回る人工林率となっており、その約8割が50年生以上に達している。都では担い手育成や森林循環の促進に取り組んできたが、林業を取り巻く状況は依然として厳しく、利用されない木材の蓄積が年々増加するなか、持続可能な森づくりのための転換が迫られている(※3)。

 こうした状況を受け、東京都は2021(令和3)年に「森づくり推進プラン」を改定し、森林整備や多摩産材をはじめとする国産木材の需要拡大、持続可能な森林循環の確立を目指す10か年計画を進めている。この計画が折り返し地点を迎えるなか、東京の森から新たな価値を生み出そうとする取り組みが「TOKYO PAPER」プロジェクトである。未利用木材を紙製品として価値化し、2026(令和8)年に製品第一号をリリースした、都市と森をつなぐ新たな循環づくりへの挑戦を取材した。

※1:令和6年度 森林・林業白書
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r6hakusyo/attach/pdf/gaiyou-15.pdf
※2 ※3:令和3年6月「森づくり推進プラン」
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/sangyo-rodo/36moriplan

ポイント

課題の背景・活動のきっかけ

● 多摩産材の生産量拡大を目指して

「TOKYO PAPER」プロジェクトが生まれた檜原村は、村域の9割以上を森林が占める地域である(※3)。「森づくり推進プラン」では、多摩産材の供給量を約1.75倍に拡大する目標(※4)が掲げられており、檜原村でもこれに沿って森林整備を進め、生産体制の強化を図ってきた。10カ年計画の中盤となる現在、間伐や作業道整備といった整備に加え、多摩産材の供給量そのものを高めていく段階に入っている。こうした流れの中で、供給の拡大と併せて、木材をいかに活用し、次の循環につなげていくかが重要な課題となっている。

※3:令和4年土地利用面積(東京都都市整備局)
※4:「森づくり推進プラン」P.72

● 未利用木材の活用という新たな課題 

木材生産の現場では、建材として利用しにくい曲がり材や細い木などの未利用木材が多く発生する。森林循環を持続させるためには、これら未利用木材に新たな価値と使い道を見いだすことが不可欠となっている。同プロジェクトを推進する株式会社東京チェンソーズでは、「1本まるごと使い切る」を掲げ、根株や枝葉を含めた活用に取り組んでいる。根株や曲がった材をオブジェや遊具、テーブル、コースターなどに加工し、枝葉からはアロマオイルを抽出するなど多様な活用を重ねてきたが、新たな未利用木材の活用として注目したのが“紙”である。

未利用木材の根株をつかったおもちゃ(東京チェンソーズ)

●  紙が森へ関わる人を増やす入口に 

このプロジェクトで重視したのが、未利用木材の活用を通じて、森とつながる人を増やすことだ。プロジェクトの中心メンバー青木亮輔さんは、「森を健全に保つことは都市部での生活にもつながっています。企業や個人にとって身近な素材である紙を通じて森を知り、その先にある体験へとつなげて森に関わる人を増やしていきたい」と話す。

 

 

活動の特徴

●  様々な企業・団体が賛同するチームに

檜原村木材産業協同組合と東京チェンソーズが連携し、檜原村と都市側の需要をつなぐ仕組みを構築。プロジェクトには立川市の株式会社KITORI、立川観光コンベンション協会、近隣で飲食店やキャンプ場を展開する株式会社do-moなどが参画し、八王子に工場を持つ紙製品メーカー株式会社山櫻が製品化を担う。配分割合などの試作を経て、今年2月24日に多摩信用金庫の役員用名刺が企画第1号としてリリースされた。多様な担い手が一体となってプロジェクトを展開し、地域全体で森と都市がつながる循環づくりを目指している。

TOKYO PAPERロゴマーク

●「使う」から「訪れる」につなげる

プロジェクトでは、紙の利用をゴールとせず、そこから森への関心を深め、実際に現地を訪れる体験へとつなげていく。東京チェンソーズや東京マウンテンツアーズで展開する企業向けの人材育成の体験プログラムや、「森デリバリー」などの子ども向け木育事業のほか、村内のキャンプ場や飲食店、自然体験教室など地域の多様な担い手と連携して、紙を通じて檜原村に訪れる人の広がりを生み出していきたいと考えている。

森デリバリー
森デリバリー
企業研修
企業研修

● 製品化第1号は企業名刺 

2026(令和8)年2月、TOKYO PAPERの第1号製品が多摩信用金庫の役員用名刺として制作され、世に送り出された。企業活動の中で使われる名刺を通じ、森と都市を結ぶ新たな試みが始まった。檜原村木材産業協同組合の鹿毛紗記さんは「スギ、ヒノキ、サワラといった針葉樹の未利用木材を使ったチップが原料になっています。汎用性や印刷などを考慮して手触りはサラサラしていますが、一枚一枚少しずつ風合いが異なるのが魅力。この紙を通じて森のことを気にかけてくれる人が一人でも増えればうれしいです」と話す。

チップ
スギ、ヒノキ、サワラなどの未利用木材のチップを使用
paper
TOKYO PAPERの名刺用紙

目指す未来

紙を入口に、同じ多摩川流域にある森とまちがフラットにつながり、情報や関心、資金が循環することで、東京の森林を持続的に守っていくこと。

パートナー・関係先

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