
芸術文化体験は、子どもたちの感性を豊かに育み実体験を通じて創造性や表現力を育て、対話を通じて更に世界を広げる創造力、苦心してモノを作る上げる力などを培うと期待される(※1)。一方で、文化庁「文化に関する世論調査報告書」によると、高校生以下の子どもについて、この1年間に劇場や美術館、コンサートホールなどで芸術文化を鑑賞した経験があると回答した割合は42.0%にとどまり、学校以外で芸術文化活動を行った割合は27.2%で、家庭環境や居住地域などによって子どもたちが文化体験と出会う機会には差がみられる。さらに、「子どもの芸術文化体験に重要なこと」として、「地域の文化施設における鑑賞機会や学習機会の充実」を求める声が最も多く上がった(※2)。
また、東京都が実施した「こども都庁モニター」アンケートでは、「今まで体験したことはないが、今後は芸術文化体験をしてみたい」と答えた子ども・保護者は47.6%に上った一方、体験したことがない理由として、「近くで体験活動をする場所がない」が53.8%で最も多かった。自由記述では、「芸術に触れる機会が少なく、よく知らないが故に興味がわかない可能性もある」「どこでどんな体験ができるのか、もっと発信してほしい」といった声も寄せられている(※3)。
このような状況のもと、東京都および東京都歴史文化財団では、これまで体験機会に恵まれなかった子どもたちを含む多くの子ども達に芸術文化体験を届ける新たな取り組みを展開している。企業や学校、文化団体などと連携しながら、多彩で心に残る芸術文化に触れられる社会を目指す取り組み「TOKYOカルチャーデビュー」を取材した。

(図1)出典:こども都庁モニター 令和5年度第4回アンケート結果
※1:文部科学省「芸術教育の意義」(2019(令和元)年6月)
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2019/06/25/1418186_4.pdf
※2:文化庁「文化に関する世論調査報告書」(2025(令和7)年3月)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/94238501_01.pdf
※3:こども都庁モニター 令和5年度第4回アンケート結果
https://kodomo-monitor.metro.tokyo.lg.jp/assets/pdf/2024/0329_all.pdf
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
● アーツカウンシル東京とは
同組織は、2012(平成24)年11月に公益財団法人東京都歴史文化財団内に発足した、芸術文化振興等を担う専門機関である。アーティスト支援や助成、地域連携型の文化事業などを展開している。


千代田区にある「公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京」
●まちや地域へ届ける文化体験
アーツカウンシル東京は自前の専有施設を持たない強みを活かし、都内全域でフェスティバルやアウトリーチ事業(出張型教育普及活動)を実施。多摩地域では、八王子で伝統文化フェスティバル「伝承のたまてばこ」を開催するなど、地域と連携した取り組みを進めてきた。浜離宮恩賜庭園や江戸東京たてもの園で開かれる「東京大茶会」では、日本文化や茶道を気軽に体験できる機会を提供するなど、文化を“鑑賞するもの”だけでなく、“参加し体験するもの”として、まちや地域へ広げていくことを大きなテーマとしている。

伝承のたまてばこ~多摩伝統文化フェスティバル~

「東京大茶会2025」主催:東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
●芸術文化との接点を広げたい
東京都歴史文化財団では、これまでも都立美術館や博物館などで子ども向けプログラムを多数実施してきたが、参加者の多くはもともと芸術文化に興味や関心を持つ子どもや親子が多かった。一方で、芸術文化には「堅苦しい」「知識が必要」といったイメージも根強く、「興味はあるけれど身近ではない」と感じる子どもたちも少なくない。だからこそ、文化施設に来る子どもだけではなく、これまで接点の少なかった子どもたちにも、「楽しい」「自由に感じて良い」と思える文化体験を届ける必要性を感じていた。そこで、地域企業や団体と連携しながら、子どもたちの日常に近い場所へ文化体験を届ける取り組みとして「TOKYOカルチャーデビュー」がスタートした。
「TOKYOカルチャーデビュー」ロゴマーク
活動の特徴
● “5つの機能”を持つプラットフォーム
TOKYOカルチャーデビューは2025(令和7)年6月に開始され、「とらえる」「つながる」「生み出す」「育てる」「届ける」の5つを柱に展開している。単にイベントや企画を実施するだけでなく、地域で活動するアーティストや文化団体をつなぎ、人材育成、情報発信までを含めた大きなプラットフォームを目指している。
- とらえる 子どもの文化体験に関するデータや成果を分析・共有
- つながる 企業・団体など多様な主体をつなぎ、子どもの文化体験の場を広げる
- 生み出す 企業・団体と連携し文化体験を共創
- 育てる 文化と地域をつなぐコーディネーターを育成
- 届ける 身近な鑑賞から本格的な創作まで、幅広い文化情報を発信
東京カルチャーデビュー ~多様な主体をつなぎ、共創する5つの機能~
● 企業と連携した体験型ワークショップ
同プロジェクトでは、アーツカウンシル東京が旗振り役となり、民間企業や地域団体、学校、文化団体など多様な主体が関わる。芸術文化団体だけでなく、多様なプレイヤーが関わることで、子どもたちの日常に近い場所へ文化体験を届ける仕組みづくりが進められている。2026(令和8)年4月には、東京ミッドタウン・日本橋三井タワーなどで、三井不動産と連携したワークショップを実施した。国内外で活躍するアーティストの門秀彦さんと子どもたちが、大きな段ボールにクレヨンで自由に色や形を描き、各ピースをつなぎ合わせて巨大なアート作品を完成させた。子どもたちは“描いて終わり”ではなく、自分たちの表現が一つの作品として形になり、鑑賞されるまでを体験したという。企業側からも「質の高い芸術文化体験を提供できる」「子どもたちを応援したい」といった声が上がっており、文化体験が子どもだけでなく、関わる大人や地域にも波及している。


企業と連携したワークショップを実施
● 対話型アート鑑賞による変化
2025(令和7)年10月から12月にかけては、昭島市内の公立小学校と立川市内の都立高校で「対話型アート鑑賞」を実施した。小学校では3年生を対象に、カードゲームを用いたアイスブレイクから始め、後半では岡本太郎作品などを見ながら自由に感想を語り合った。正解・不正解を求めない対話のなかで、「どんなことを言ってもいいのだ」と感じた子どもたちから、普段の授業では見られない積極的な発言も生まれるなど、新たな一面が見られたという。担当教諭からも「図工の時間への向き合い方が変わった」「粘り強く制作するようになった」といった声が上がり、文化体験が子どもの内面やコミュニケーションに影響を与える可能性も見えてきた。この取り組みは「子どもがアートに触れ合うことによって、自己肯定感を感じられるのか」というリサーチにも活かされる予定だ。
目指す未来
芸術文化体験が特別なものではなくて、当たり前のものになること。

