
近年、非正規雇用の増加や雇用環境の変化を背景に、生活基盤が不安定な人への支援の重要性が高まっている。総務省の労働力調査によると、2025(令和7)年時点の非正規雇用者数は約2,147万人で、役員を除く雇用者全体の約37%を占める。また、完全失業者数は203万人と前年から15万人増加し、働き方の多様化が進む一方で、不安定な雇用環境のなかで生活基盤を失う人も少なくない(※1)。ネットカフェや友人宅、車中泊などで暮らす「見えないホームレス状態」も深刻化しており、東京都福祉局の調査では都内のネットカフェ難民は約4,000人に上り、不安定な雇用や住環境が社会課題となっている(※2、3)。
そうした背景から、国や自治体では生活困窮者や住宅確保要配慮者に対する支援制度の整備が進められている(図1)。住居確保給付金や生活保護、自立相談支援事業、住宅セーフティネット制度など、多様な支援策が用意されている一方で、制度の利用方法が分からない人や、制度の対象外となる人、制度利用までの手続きに不安を抱える人も顕在化している。
特に、仕事はあるものの住まいを確保できない人や、保証人がいない、家族との関係が途絶えているといった事情を抱える人にとっては、制度だけでは解決が難しい課題も存在する。こうした状況のなか、行政や支援機関と連携しながら、住まいと仕事の両面から生活再建を支える民間事業者の役割が注目されている。八王子市を拠点とするRelight株式会社は、就職支援事業「いえとしごと」や居住支援事業「コシツ」を通じて、公的支援を補完しながら、一人ひとりの暮らしの再スタートを支援している。就職・居住支援を通じて、次の一歩を踏み出す基盤づくりに伴走する同社を取材した。
※1:労働力調査(2026(令和8)年 総務省)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf
※2:「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」P2(2018(平成30年)東京都福祉局)
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/netcafesurvey-gaiyo_pdf-pdf
(図1)東京都のホームレス対策 (2026(令和8)年1月東京都福祉局)
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/homeless202601-pdf
生活困窮者や住宅確保要配慮者への公的支援制度が整備される一方、行政と連携した就職支援事業や居住支援事業なども進められている。
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
● 高校時代、ホームレス問題との出会い
Relight株式会社代表の市川加奈さんは青梅市出身。高校に進学し立川へ通うようになった頃、当時の立川駅周辺で初めてホームレス状態の人を目にした。祖父母に育てられ高齢者を身近に感じていた市川さんは、当時は介護福祉士を目指していた。駅前で暮らす人の姿を目にし、「なぜ誰も声をかけないのだろう」と強い関心を抱くようになる。「当時は社会保障も分からず、自分に何ができるだろうと思いました。かわいそうではなく、日本は豊かな国だと思っていたのに、社会のほころびを見つけてしまい、社会構造に疑問を持つようになりました」と振り返る。
● 見えないホームレス状態
大学在学中は炊き出しボランティアに参加し、活動を通じて見えてきたのはホームレス問題の多様化だった。路上生活者は減少傾向にある一方で、ネットカフェで暮らす人、友人宅を転々とする人、車中泊を続ける人など、統計には表れにくいが住まいを持てない人が増え、若年層も少なくなかった。炊き出しに来る人の中にも、「仕事をしているが住む場所がない」という人も多く、「働いていても住まいを確保できず、生活の基盤を失いかけている人が生まれる社会をなんとかしたい」と感じるようになった。

● 起業して社会課題を解決したい、新卒で「ボーダレス・ジャパン」へ
周りが就職活動をするなかでも、「社会の実態をなんとかするには起業するしかない」と考えた市川さん。大学卒業後は、社会問題をビジネスで解決するソーシャルビジネスの新規事業開発をする株式会社ボーダレス・ジャパン東京支店(新宿区、本社=福岡県)に入社した。ボーダレス・ジャパンで事業づくりを学びながら、自ら事業プランを提案し、社内起業としてRelight株式会社を立ち上げた。現在は創業7期目を迎えている。

ボーダレスジャパンのWEBサイトより
ボーダレスジャパン全社会議。各地でソーシャルビジネスに取り組むメンバーが集まる。
●住まいを失う若者たちの現実
同社に寄せられる相談の多くは20〜30代の若者からだ。家族との関係悪化や虐待、仕事の不調などをきっかけに住まいを失い、ネットカフェ生活を続ける人も少なくない。行政が運営する自立支援施設を紹介するなど行政制度や支援機関につなぐ場合もあるが、その間を埋める役割として事業を展開している。

●制度と民間サービスをつなぐ
現場で相談を受け続けるなかで、制度の利用方法が分からない人や、家計管理、行政手続きなど生活再建そのものに伴走が必要なケースも少なくないことが見えてきた。一方で、相談業務や生活支援は事業として収益化しにくい領域でもある。そこで市川さんは、株式会社による事業に加え、2025(令和7)年にはNPO法人を設立し、公的支援との連携や相談業務などを行っている。ビジネスと非営利、それぞれの強みを生かしながら、住まいや仕事だけでなく生活再建全体を支える体制づくりを進めている。
活動の特徴
● 寮・社宅つきの仕事を紹介する「いえとしごと」
ホームレス状態にある人たちへ何が必要かを尋ねたところ、最も多かった答えは「仕事が欲しい」だった。そこで2019(令和元)年10月にスタートしたのが、寮や社宅が付いた求人を紹介する人材紹介事業「いえとしごと」だ。創業直後にコロナ禍が発生し、企業の採用活動が停止する一方で、困窮者からの相談は最大で月300件ほど寄せられる状況となった。住まいも仕事も失った人たちへの対応に追われながら、事業を継続してきた。「住所がない」「スマホがない」「日払いが必要」などの条件に応えながら、累計就職者数約1400名、導入企業数100社に上る。

寮・社宅付きの仕事を紹介する「いえとしごと」
●身分証がない、保証人がいない人の居住支援「コシツ」
コロナ禍を経て、相談内容は「仕事はあるが、住む場所がない」へと変化した。身分証や保証人がない、家族との関係が途絶えている、過去の滞納歴がある――。そうした事情から、住まいを確保できない課題に応えるため、同社が不動産オーナーから物件を借り上げ、住宅確保が難しい人へ住まいを提供する居住支援事業「コシツ」を開始した。現在の入居者数は60名。ネットカフェや友人・知人宅を転々とするなど不安定な生活を送っていた人が、安心して暮らせる住まいを得て、就職や生活再建への一歩を踏み出すきっかけとなっている。厚生労働省と国土交通省が推進する住宅確保要配慮者居住支援制度において、都道府県が指定する居住支援法人として、自治体とも連携を進める。

居住支援「コシツ」
●八王子を拠点に一人ひとりの暮らしに伴走
仕事や住まいを提供しても、その後再び生活が不安定になる実態も少なくなかった。困った時だけ関わる支援に限界を感じ、2026(令和8)年3月に活動拠点を市ヶ谷から八王子市内に移し、入居者と関わりながら伴走する活動「八王子ベース」を始めた。拠点周辺の八王子市内には入居者向けの住まいが点在しており、事務所を兼ねたコミュニティ拠点には入居者が相談や食事に訪れるなど、「ご近所さん」のようなつながりを育んでいる。「顔の見える関係性ができ、生活の変化を見守れるようになった。生活が落ち着く人や就職につながる人も増え、こうした場所が必要だったと実感しています」。

事務所を兼ねた入居者のコミュニティ拠点

入居者とは入居後も関わりを持っている
●推し活!?支援する人・される人を超えて、支え合う関係へ
同社が目指しているのは、「支援する人」と「支援される人」という関係を超えた相互支援の仕組みだ。ホームレス状態にある人たちと交流するなかで、その人柄や人生経験に魅力を感じるようになり「支援というより推し活に近いです。施しではなくおせっかいだから、対等な関係でありたいです」と話す。入居後は、料理や庭仕事、掃除、家具の組み立て、引っ越しの手伝いなど、それぞれができることで関わり合う機会をつくっている。今後は、入居者一人ひとりが次のステップへ進めるよう関係づくりを深めながら地域での関係性を温め、他地域への展開も視野に入れる。

「年末年始はここでおせちを作って、みんなで年越しをしたい」と市川さん
目指す未来
生きていくことで悩まない、誰もが「なんとかなる」と思える社会。
パートナー・関係先
株式会社ボーダレス・ジャパン
https://www.borderless-japan.com

