
地域で親しまれてきた店や、人が集う場所を、誰が引き継いでいくのか。中小企業及び小規模事業者では、経営者の高齢化などを背景に深刻な後継者不足が課題となっている(※1・図1)。後継者が「いない」または「未定」の企業は全国で50.1%、東京都内でも47.9%に上る(※2)。いずれも前年より改善し、都内では初めて5割を下回ったものの、なお半数近くの企業で後継者が決まっていない。地域の企業や商店を次の世代につなぐためには、新たな担い手との出会いと、引き継ぎを支える仕組みが必要となる。
一方、地域に関わり、社会や地域の課題に取り組みたいと考える学生もいる。大学でも地域と協働して課題解決に取り組む動きが広がっている(※3・図2)。地域での活動は、教室だけでは得にくい経験を通じて多様な価値観に触れ、地域の課題を自分自身の問題として考える機会となる。しかし、イベントやボランティアへの参加に留まらず、事業運営そのものを担う機会はまだ限られている。
そこで重要になるのが、地域の事業者と学生をつなぎ、協働の立ち上げから実践までを支える存在である。事業者の想いや地域との関係を理解し、学生との間に立って調整しながら挑戦を支える人がいてこそ、挑戦を続けやすくなる。地域の事業と学生の挑戦をどう結び、次の担い手を育てていくか。日野市のかき氷店「南極堂 STAND 豊田本店」の運営を学生団体MESSIES(メッシーズ)に託し、一般社団法人ひのプロが両者をつないだ取り組みを取材した。
※1:事業継承を知る(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/know_business_succession.html
※2:後継者不在率調査(2025(令和7)年帝国データバンク)
全国 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
東京都 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201982_1527.html
※3:「大学におけるボランティア活動支援に関する全国実態調査速報版」東京ボランティア・市民活動センター
https://www.tvac.or.jp/download/file/1HiSACzB4W2K.pdf

(図1)出典:「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」
(2023(平成5)年日本政策金融公庫総合研究所)

(図2)出典:「全国学生1万人アンケート~ボランティアに関する意識調査」
(2023(平成5)年公益財団法人日本財団ボランティアセンター)
ポイント
課題の背景・活動のきっかけ
●地域活動から生まれた「ひのプロ」
一般社団法人ひのプロ代表理事の高畑勝さんが日野市で地域活動を始めたのは約10年前。任意団体「ひのプロ」として、地域の仲間とJR日野駅周辺のにぎわいづくりに取り組んだ。メンバーそれぞれが拠点づくりなどに取り組むなかで、活動の幅を広げるため団体を法人化。2026年4月に一般社団法人として活動を始めた。現在は近隣の大学と商店会、行政の連携や、JR豊田駅南口周辺のにぎわいづくりなどに関わり、公と民の間で人や場をつなぐ役割を担っている。

一般社団法人「ひのプロ」代表理事 高畑勝さん
●空き家の活用で築いた、地域との信頼
高畑さんは日野市の空き家活用プロジェクト「まちと空き家の学校」に関わり、空き家を活用する実践を重ねてきた。南極堂の物件も、借りる前は木々に覆われ、建物が見えにくい状態だったという。市内で手入れの必要な物件を数多く活用してきた高畑さんのもとへ、日野市から直接相談が寄せられた。店を開いてからも、自治会の防災訓練や餅つきに参加するなど、住宅地にある店舗として地域との関係づくりを大切にしてきた。こうした日頃のつながりから、別の空き家を紹介されることもあるという。

木々に覆われた空き家を改修した現在の「南極堂STAND」豊田本店
●かき氷専門店「南極堂STAND」
かき氷専門店「南極堂STAND」豊田本店は、日野市内でそれぞれ事業を営む仲間たちが設立した合同会社hinamoによって、2017(平成29)年に開業した。代表の高畑勝さんらが目指したのは、「まちに人が足を運ぶきっかけをつくる」こと。てんさい糖を使ったオリジナルシロップなど素材にこだわったかき氷を提供し、夏の営業期間には近隣住民やSNSを見て訪れた客でにぎわう。

てんさい糖を使うなど素材にもこだわった南極堂のかき氷
●学生が地域で挑戦できる場を求めて
南極堂と学生団体MESSIESをつないだのは、一般社団法人ひのプロ理事の清水直さん。清水さんが多摩地域で開かれた学生向けのビジネスプログラムで、実践の場を探していたMESSIES代表の小杉吏玖さんと出会い、高畑さんに紹介した。中央大学経済学部在学中の小杉さんは1年次に仲間とMESSIESを立ち上げ、「学生の一歩目を支援する」を掲げてマルシェやイベントの運営などに取り組んできた。高畑さんは「同団体が掲げる『挑戦を孤独にさせない。地域と学生が共創する仕組みをつくる』というビジョンに深く共感しました」と振り返る。当初は「何か手伝えることはないか」という相談から始まったが、話し合いを重ね、学生たちが店の運営を担うことになった。高畑さんにとっても、学生に店を託す初めての試みが始まった。

活動の特徴
●学生が接客だけでなく経営に携わる
学生たちは単なる接客業務を担うのではなく、店の運営そのものを託されている。「運営を委託しているので経営的なこと、お金の管理も任せています」と高畑さん。基本的な研修の機会を設けたうえで、かき氷づくりや接客に加え、シフト管理、広報、会計などを役割分担をして取り組む。小杉さんは「かき氷を作った経験がないところから練習を重ね、税務など分からないことは専門家や大学の先生にも相談しました。会計士を目指すメンバーが会計を担当しています」と話す。高畑さんは「彼らぐらい積極性があると大半のことは調べればわかるし、行動力もある。『困ったら聞いてきて』というスタンスで基本的なことは任せました」と話す。学生の判断を尊重し、日々の営業と売り上げの双方に向き合う経験を積む機会を設けている。

学生団体MESSIESのメンバー
●店舗運営は試行錯誤の繰り返し
MESSIESのメンバーは、全体のマネージメント・広報・店舗責任者が役割を持ち店舗運営の中核を担っている。今年は天候に恵まれず昨年に比べて客足は伸びなかったものの、地元のファミリー層を中心に多くの来店があった。小杉さんは「Instagramを見て遠方から来てくれるお客さまも多く、こんな住宅地にお客さんが来てくれるんだ、こんなに盛り上がるんだと驚きました」と話す。とはいえ店舗の運営には困難も伴い「工夫してやってみて、だめなら更に工夫しての繰り返し。高畑さんにも相談しながら試行錯誤し、一日店長の企画や学生を集めるイベントなど泥臭く集客に取り組みました」と振り返る。


●店の外にも広がる、地域とのつながり
学生たちは南極堂の運営と並行して、ひのプロが関わる地域の催し物にも参加している。「自分たちのように『何かやりたい』という学生は当然ボランティアにも積極的なので、大人数で参加しています」と小杉さん。店での接客に加え、地域の人と一緒に活動し、顔を覚えてもらう機会が増えた。高畑さんは「学生にとって、多世代と話すことは最初こそ遠慮もあるだろうが、実際に言葉を交わすと距離が縮まり、自然に関係が生まれる。いろいろな人と関わることが、学生たちの経験を豊かにすると思っています」と話す。
●任せて、挑んで、見えてきた課題
今年は雨の日が多く、営業面では苦戦した。高畑さんは学生の自主的な運営を評価する一方、新たな客を呼ぶという期待には課題が残ったと話す。学生からもトッピングや催しの案が出たが、店のブランドや他店舗との兼ね合いで実現できないものもあった。小杉さんは「一歩間違えると店を潰しかねないし、リアルな経営はAIでは正解の出ないことばかり。オーナーの想いがある事業を引き継ぐ難しさを感じた」と振り返る。高畑さんは「インターンではなく、大学生に運営まで任せる重みを感じています。教育の観点では100点でも、経営としては成果が問われる。成果を上げることができれば、この夏が終わったとき、彼ら自身にも『頑張った』『楽しかった』以上の手応えが残ると思います」とも。双方が成果と課題を率直に話し、経験を次の挑戦につなげていく。

畑と隣接する屋外テラス席
●一度きりの経験で終わらせない
小杉さんは、店の運営に追われ、壁にぶつかりながらも、地域の人と関わるなかで活動の軸が見えてきたという。「学校、アルバイト、家を行き来していた生活に『地域』が加わり、自分の世界や将来の選択肢が広がりました」と振り返る。高畑さんが見据えるのは、学生の成長だけではない。「学生の挑戦の場として伴走してきた経験と、これまでの地域のつながりを活かして、若い人の挑戦を地域の店や人と結び、まちの未来につながる取り組みにも活かしていきたいです」と話す。地域で育まれてきた資源に新たな担い手が関わり、まちの未来をともにつくる仕組みを模索している。

継続を見据えて1年生もスタッフとして参加
目指す未来
人々が互いを思い合える寛容な社会。ルールやお金だけでは測れない、人と人との信頼があること。自由には責任も伴うが、顔の見える関係を築ける地域だからこそ、互いを思いやり、誰もが気持ちよく生きられる寛容な社会を、身近な地域から育てていきたいです。
パートナー・関係先
- かき氷専門店の南極堂STAND
https://www.instagram.com/nankyokudo2755hino/

