未来を創るたまの企業

2026.07.01
瑞穂町

FRPで確かな技術を持つ町工場が作る
「腐らない木材」の新しい価値

株式会社泉化工

[2026年04月 取材]

 町工場の技術が、木材の未来を変えようとしている。東京都瑞穂町にある株式会社泉化工は、強化プラスチック(以下、FRP)の成形加工を主業とし、長年にわたり産業機器や建材分野の部材製造を支えてきた企業である。近年同社が挑んでいるのは、木材に樹脂を含浸(がんしん)させて耐久性を飛躍的に高める「Resin Protected Lumber(以下、RPL)化技術」である。この取り組みは、成熟期を迎えた森林資源の利用促進を図り、国産木材の可能性を広げる新たな一手としても注目されている。

 この技術は、本来なら経年によって腐食や劣化が避けられない木材を、吸水による腐朽やシロアリ被害を抑え、屋外でも長期間使える素材へと変えるものであり、木材の価値そのものを再定義する試みだ。受注生産を主軸としてきた町工場が、自らの技術を社会課題解決へと転用し、新たな事業の柱を築こうとする背景には、現場で培われた実践知とものづくりへの絶えない情熱がある。地域資源の新たな活用モデルとして、産業界からの関心も高まりつつあるこの取り組みを取材した。

 


事業の特徴

 

「作ることを楽しむ」瑞穂町の町工場

株式会社泉化工は、FRPの成形加工を手掛ける社員十数名の町工場である。「創業以来55年、ホームページも開設せず、依頼のほとんどは口コミや業界団体からの紹介です」と話すのは、代表取締役の渡邉喜宗さん。持ち込まれる依頼は「他社ではできないと言われた」「どう作ればいいのかわからない」など、難易度の高いものばかりであるが、材料の組み合わせや成形方法(※1)を含む企画設計、試作から生産までを一貫して担い、「少人数で、作ることを楽しむ姿勢」を先代の頃から貫いてきた。顧問の渡邉喜六さんは、「『他社でできるご依頼はどうぞ他へ』とお断りしてきました。難しいものをどう形にするか、私たちはそれが面白いのです」と語る。

※1:FRPの材料は、主にガラス繊維やカーボン繊維などの補強材に、ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などを組み合わせる。成形方法は繊維に樹脂を手作業で積層する方法や、型内に樹脂を注入する方法など、用途や形状に応じて様々。

西多摩郡瑞穂町箱根ケ崎にある同社
取材当日も工場では様々なFRP製品が製作されていた
画面左は水害時に地下施設などへの浸水を防ぐ止水板(しすいばん)

 

社会インフラを支えるFRP技術

同社が手掛けるFRP製品は、高速道路やマンション、空港など、社会インフラの様々な場面で活用されている。西日本のある高速道路トンネル内で使用されているケーブルの支持部品は、2012(平成24)年の笹子トンネル天井板落下事故以降に高まった落下防止ニーズから開発したものである。異素材の金属とFRP、それぞれの熱収縮差を制御しながら一体成形することで、腐食対策と安全性を両立させている。また、マンション屋上などに設置される、屋外の風圧差を利用して室内の空気を屋外へ排出する換気装置は、電気を使用しないため省エネや騒音低減にも効果的であり、20年以上続けて製作している。

高速道路トンネル内で使用されるケーブルの支持部品
風力で排気を行う自然換気装置

 

建築やスポーツの分野でも活躍

建築分野でも同社独自の技術が評価されている。ある有名テーマパークでは、経年劣化した建築物の屋根瓦の代替として、軽量で不燃性を持つFRP製瓦を開発。コンクリート瓦の風合いを再現しながら軽量化を実現したこの瓦は、他社が断念したほど難易度の高いものだったが、最終的な仕上がりを見た本社の責任者からも最高評価を得たという。さらに、スポーツ分野では2014 FIFAワールドカップブラジル大会に使われたフィールドベンチや、東京2025世界陸上競技選手権大会の円盤投げで使われた円盤シェルなど、実績の枚挙にいとまがない。

 

2014 FIFAワールドカップブラジル大会に使われたベンチ
東京2025世界陸上競技選手権大会の円盤投げで使われた円盤シェル

 

FRP技術から生まれた「腐らない木」

同社が近年、力を入れる新たな開発が、木材に樹脂を含浸させるRPL化技術である。きっかけは工場の敷地内になにげなく置いていたFRP用の木型であった。工場の建屋内には置けないほど大きかったため、表面に樹脂を塗布した上で屋外で保管していたが、それを見た来客からの「ずっと外に置いてあるこの木は、なぜ腐らずにきれいなのか?」という一言で、6年前に喜六さんが開発を思いついた。さらに喜六さんは、自身がFRP業界で働き出した昭和30年代頃にも、この技術をよく実践していたという。「60年以上前のことですっかり忘れていましたが、当時木造ボートの腐食対策として頻繁に行っていた技術だったのです。当社の今の技術なら、この木材のRPL化をより高い精度で実現し、新しい事業として様々に展開できると感じました」と振り返る。

杉の板にRPL加工を施したもの(上)とそのままの板(下)。加工後の板は少し重いが見た目も風合いもほぼ変わらない。

 

“木は敵”だった社長が向き合った可能性と地域課題解決策への期待

実は、喜宗社長は当初この事業には消極的だったという。「FRP業界の我々からすれば、木は腐る素材としてFRPに置き換える対象です。『木を腐らなくするのは敵に塩を送るようなもの』と父には話していました」と苦笑する。しかしRPL化した木材が、腐朽やシロアリ、菌による被害を抑え、さらに耐候性(※2)も向上することが公的試験機関の試験結果などで明らかになると、東京都森林組合などから大きな期待が寄せられた。東京都多摩地域の森林で育ったスギやヒノキなどの木材(多摩産材)を、より幅広い用途で活用したいという地域課題、そしてスギやヒノキが比較的柔らかく、屋外の用途では腐朽や劣化が障壁となってしまう素材の課題に対し、同社が培ってきたFRP技術が新たな解決策となったのである。木材を完全に樹脂で覆ってFRPやプラスチック製品のようにするのではなく、木本来の質感や風合い、加工性を残せるよう材料選定や加工方法で工夫するため、木材の特性を活かした活用も広がる。RPL化木材の用途として考えられるのは、ウッドデッキや外壁、ルーバー、家具材など。現在、神奈川県藤沢市の湘南海岸公園ではウッドデッキの実証利用が続き、高知県では現地木材をRPL化する工場計画も進んでいる。「開発に時間がかかりましたが、ここ2年ほど売り上げが伸びており、問い合わせも増え、ニーズの高まりを実感しています」と、喜宗社長は語る。

※2:プラスチック、塗料、金属などが屋外の自然環境(太陽光・温度・湿度・雨・酸素)に長期間さらされても変色、脆化(もろくなる)、変形、劣化などを起こしにくい性質

神奈川県藤沢市の湘南海岸公園で実施中のウッドデッキ実証利用

 


お話を伺った人

 

(肩書き・氏名)
(左から)
株式会社泉化工
顧問・開発営業
渡邉 喜六さん

代表取締役
渡邉 喜宗さん

 

企業概要

HP なし
代表者名 渡邉 喜宗
資本金 10,000,000円
創業 1972年6月
社員数 正社員14人、パート1人

この記事をシェアする

Facebookでシェア Xでシェア LINEでシェア