
私たちの暮らしや社会を支える「電気」は、工場においても製品を作る機械や生産ラインを動かす重要な基盤である。工場で電気を安定して使い続けるには、設備の設計・施工から保守管理まで、高度な技術と経験を持つ専門家の存在が欠かせない。
東京都日野市に本社を構える濱坂(はまさか)電機株式会社は、「工場の電気設備のプロ集団」として、1955(昭和30)年の創業以来、製造業を中心とする企業の電気設備を支えてきた。電気工事に加え、生産設備の制御やFA(※1)、省エネ、原価削減提案まで、顧客の課題に応じて、事業領域を広げてきた企業である。
同社の強みは技術力だけではない。「技術を支える人」を育てるため、人材育成やダイバーシティ経営にも力を注ぎ、社員一人ひとりが活躍できる環境づくりを進めている。さらに、「濱坂リボーンプロジェクト」を通じて、社員とともにこれからの会社の姿を描く取り組みにも挑戦している。電気設備の専門企業として歩んできた歴史と、人を中心に据えた新たな挑戦について、取締役社長の門下和夫さんに話を伺った。
※1:Factory Automation(ファクトリーオートメーション)の略。工場の製造工程を機械やコンピューターで自動化すること
事業の特徴
顧客の依頼に応えることで広がってきた70年
創業は1955(昭和30)年。門下さんの父・萬壽雄さんが東京都中野区で個人企業として始めたのが原点である。社名の「濱坂」は、父の出身地である兵庫県浜坂町(現在は兵庫県美方郡新温泉町の一部)に由来する。26歳で上京した萬壽雄さんが東京で多くの人に助けられた経験から、同郷の人たちの拠り所になりたいとの思いを込めたという。当初の事業は電機関連の資材販売が中心であった。そこに、顧客から「資材だけでなく工事もお願いしたい」との声が寄せられ、1965(昭和40)年に工事部を設置した。さらに1971(昭和46)年には制御課を新設し、電気工事に加えて工場の生産ラインを動かす制御システムも手掛けるようになった。顧客の工場で仕事をするなかで寄せられる「ここも解決できないか」という声に一つひとつ応えてきたことが、同社の事業領域と技術力を広げてきた。現在は、工場などの電気設備の設計・施工・監理に加え、FA設備や制御機器、制御用ソフトウェア、省エネ・原価削減提案まで、電気工事に関わる幅広い課題に対応している。顧客は関東一円に広がる一方、多摩地域の製造業とのつながりは特に深い。同じく市内に本社を置く日野自動車をはじめ、トヨタ自動車羽村、東芝、日産自動車などの大手企業とも長年取引を続けるほか、日野市内の公共施設の電気設備関連工事については、同社がその多くを請け負う。
「電気の安心」を生む技術力と人の力
経営理念は「電気の安心を届ける」。ここでいう「安心」とは、単に事故を起こさず安全に工事をすることだけではない。「任せてよかった」と顧客に思ってもらえる仕事までを含む。そのために徹底しているのが、安全管理と顧客との信頼関係である。同社では「施工ミス」を限りなくゼロに近づけるため、業務の「見える化」によるパフォーマンス改善にも取り組んでいる。また、ISO9001、ISO14001の認証を取得し、品質・環境マネジメントの継続的な改善を図っている。そして、門下さんが同社ならではの強みと特に挙げるのが、社員一人ひとりの「ホスピタリティー」である。コミュニケーション研修の講師を務めるほど、社外から信頼の厚いベテラン社員がおり、困った時に相談できる体制があるのも心強い。また同社では一人の技術者が、打合せから設計・積算・材料手配・現場管理を一貫して担当するので、スピーディーな対応ができるだけでなく、顧客にとって担当者の顔が変わらないことも大きなメリットである。「技術力だけでなく、先方の担当者との関係まで含めた『安心』。それが、長年にわたり顧客との信頼関係を築いてきた私たちの強みです」と門下さん。「電気の安心」を伝える動画(※2)が同社ホームページにアップされているが、2011年(平成23年)の東日本大震災や2016(平成28)年の熊本地震の際に、行った工場の復旧のエピソードをもとにしている。電気は普段、当たり前のように使えるからこそ、止まったときにその重要性が分かる。見えないところで工場の稼働を支えることが、同社の仕事である。
※2:『「電気の安心」を守るエピソード』
「なりたい自分」を社員自身が選ぶ人材育成制度
電気設備の技術を支える人材を育てる仕組みにも、同社は力を入れている。その背景にあるのが「人は宝」という考えだ。2021(令和3)年より、社員が自分の将来像を考えてキャリアを選択できる独自の制度を導入した。入社1年後を目安に、社員自身が「なりたい自分」を考え、①マネージャー、②エキスパート、③次世代経営者、④ワークライフバランスの4コースから、目指す働き方を選択する。3年ごとに見直すが、ライフステージの変化などに応じて変更することもできる。特徴的なのは、「次世代経営者コース」を設けていることだ。「私に子どもがいないこともありますが、次の経営者は外から呼ぶのではなく、事業をわかっている社内の人を育てたいと思って、このコースを設定しました」と門下さん。希望者は経営者候補生登用試験に挑戦し、合格すれば経営会議に参加したり、社内プロジェクトのリーダーを務めたりする。「声を掛けられるのを待つのではなく、自ら立候補することが大事。実際にこの制度で役員になった人も1人います」と門下さん。求めるのは「自律した社員」であり、自分の意思で未来を選ぶことそのものが、成長につながる。2025年度には企業内大学「Hama College(ハマカレッジ)」もスタートし、若手社員14人が参加している。若手社員がベテラン社員から実務を学ぶだけでなく、外部講師から経営などを学ぶ場でもある。知識や技能の継承に加え、世代を超えた社内コミュニケーションの場としても期待される。
多様な人材の力を会社の成長につなげる「ダイバーシティ経営」
電気工事の現場は、男性が多い職場というイメージが昔から強いが、同社はそこに変化を起こそうとしている。女性活躍を後押しし、管理職登用を進めるほか、今後は女性の技術職採用にも力を入れるなど、多様な人材が専門性を発揮できる職場を目指す。そのきっかけの一つとなったのが、門下さん自身が、女性が専門性を生かして働く姿を身近で見てきた経験だ。インテリアデザイナーとして長年働いた妻の姿から、「女性が活躍することで周囲にも良い影響が生まれる」と実感したという。また、「自分が大変なときは休み、別の人が大変なときには自分が支えるという『お互い様』の考え方を、職場に根付かせたいのです」と門下さん。女性に限らず、外国人、高齢者、障がい者など、それぞれの経験や能力を生かせる環境を整え、人材の確保と会社の持続的な成長につなげる。その根底にあるのが、同社が掲げる「社員満足なくして顧客満足なし」という理念だ。働きやすい環境を整え、一人ひとりの力を生かすことが、社員の成長だけでなく、会社の成長にもつながると考えている。
守る経営を変わる経営へ「濱坂リボーンプロジェクト」
70年以上にわたり、工場の電気設備を支えてきた同社だが、その歩みは決して順風満帆ではなかった。大きな転機が訪れたのは、2000(平成12)年前後。主要取引先の再編などによる受注減から3期連続の赤字となり、人員整理や経費削減など、会社を守るための対応を余儀なくされた。その後、業績は回復したものの、「人数を増やさない」「借金をしない」といった守りの姿勢は長く続いた。「会社が永続的に発展するにはこのままではいけない。もう一度生まれ変わる必要がある」。そんな門下さんの思いで始まったのが「濱坂リボーンプロジェクト」である。「現状維持は衰退である」を掲げ、収益構造改革、ジェンダー平等、人材開発、DX推進、仲間を増やす、働く環境改善、ブランディングの7つの目標に取り組む。単なる業績向上を目指すのではなく、「社員満足なくして顧客満足なし」という考えのもと、社員の声を取り入れながら、会社そのものを変えていく取り組みだ。その一環として、働く環境改善のために新社屋の建設も進めている。危機を乗り越えるために「守る」ことを選んだ会社が、今度は持続的に成長するために「変わる」。挑戦は現在も進んでいる。
次の時代も「人」を中心に成長する
2027(令和9)年5月に完成予定の新社屋には、同社が目指すこれからの姿が表れている。中庭から自然の光や風を取り込み、打ち合わせやランチ、休憩などに使える多目的スペースを設ける。屋上庭園も計画され、社内のどこでも仕事ができる環境を整える予定だ。どのような空間で働きたいか、社員の声を反映しており、新社屋そのものが「働く環境を社員と一緒に創る」取り組みとなっている。「社員が第一」と話す門下さんは、事業規模を大きくすることを第一の目的にはしていない。中小企業庁が推進する「100億宣言」にも参画し、2035(令和17)年を見据えた成長のロードマップや組織づくりを進めている。一方で、目指す姿の根底にあるのは、社員にとってより良い会社であることだ。創業者が故郷の名を掲げて始めた会社は、顧客の課題に応えることで事業を広げ、技術を磨き、人を育ててきた。その積み重ねが、70年にわたる顧客との信頼関係と現在の総合的な技術力につながっている。社員が自分の未来を選べる会社へ。そして地域の製造業を支える企業として、成長し続けたい。同社のリボーンは、単に会社の形を変えることではない。人を活かし、技術を磨き、未来につなぐためにこれからの会社のあり方を創り直していく挑戦である。
お話を伺った人

(肩書き・氏名)
(左から)
濱坂電機株式会社
営業部 部長
小出 弘二さん
取締役社長
門下 和夫さん
営業部 第一営業課 主事
清水 真依さん
| HP | https://hamasaka.biz |
| 代表者名 | 門下 和夫 |
| 資本金 | 授権資本金500,000,000円・払込済資本金140,320,000円 |
| 創業 | 1955年4月1日 |
| 社員数 | 93人(男性79人、女性14人 |
