未来を創るたまの企業

2025.05.02
三鷹市

愛犬のがんを発見する新技術
少量の血液で判定

株式会社メディカル・アーク

[2025年03月 取材]

古代より牧羊犬や狩猟犬、盲導犬や麻薬犬として人間をサポートしてきたイヌは、家庭においても家族やパートナーとして大切な存在となっている。近年、生活意識やライフスタイルの変化に伴い、従来の番犬やペット(愛玩動物)からコンパニオンアニマル(伴侶動物)へと愛犬の存在価値や役割が見直されつつある。

一方で、イヌの平均寿命は12~15歳、人間の1/5と短い。言葉が話せないイヌの身体の異変に気づくことは難しく、特にイヌの死因の50%以上であるがんは人間に比べて進行が早い(※1)。また、動物には公的な医療費制度がないため経済的な観点からも、早期の治療が求められる。少量の血液からがんを発見する検査を実用化した、三鷹市の「株式会社メディカル・アーク」を取材した。

※1: 日本アニマル倶楽部(現 SBIプリズム少額短期保険)「犬・猫 死亡原因病気TOP10」

◎株式会社メディカル・アーク


事業の特徴

わずかな血液からイヌのがんを高感度で判定

イヌの血液がん検査「Ark-Test」は、少量の血液から86%から100%と高い感度でがんを発見し、がんの罹患および12種類のがんの検出が可能な検査システム。指定の動物病院で採取した血液は、東京農工大学小金井キャンパス内に所在する同社の研究所で検査され、判定に応じて病院でエコー検査やMRI検査などで確定診断が下される。イヌの身体負担も少なく安価なため、定期的な健康診断などが容易に取り入れることができ、がんの早期発見と治療を可能にする。同社は、従来のDNAベースの検査と異なり、がん細胞(腫瘍)から分泌されるエクソソーム(※2)内のDNAを支配するmiRNA(マイクロ・アールエヌエー)に着目し、ノーベル賞を受賞したmiRNAを世界に先駆けて事業化した。この結果に至るまでには、同社代表で獣医学博士である伊藤博先生と研究室の地道な研究活動があった。

※2:細胞から分泌される細胞外小胞の一種で細胞間の情報伝達を担う物質

研究所のある東京農工大学小金井キャンパス

 

エクソソーム内のmiRNAを解析

 

ノーベル賞受賞のmiRNAを世界で初めて事業化

伊藤先生は東京農工大学の名誉教授で、退官後も動物の臨床と研究に力を尽くしてきた。日本では人間の医療研究と異なり、伴侶動物に関する研究費の支援が乏しく、その点で苦慮していたところ、人間の先端医療を動物に応用する「比較医療」に注目した。2014(平成26)年に、東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広特任教授が立ち上げたmiRNA研究のプロジェクトチームで確立された技術のサポートを受けて、イヌのがん検査に応用する研究が開始された。骨肉腫、肺がんなどに罹患したイヌを集め、AIを用いた統計解析を行い、検体数1万件以上、試薬代8,000万円以上、8年の歳月をかけて研究と実証実験を重ね、12がん種に加えてがんの有無についても91%と高感度に判定できることに成功し、検査システム「Ark-Test」を完成させた。2024(令和6)年11月1日(ワンワンワンの日)に同年に発表されたノーベル生理学・医学賞に先駆けて、世界で初めて事業化に成功した。

研究所のみなさんと
がん細胞から分泌されるエクソソーム
がん細胞が小さなうちから発見できる可能性が高い

ネコや他の動物にも、可能性が広がる事業展開

「Ark-Test」は全国の動物病院に普及し、現在は730施設で導入され海外との提携も進んでいる。伊藤先生に今後の展望を伺うと、「より安価に飼い主に検査を提供できるよう、大量の検体を一括で検査できるようにするほか、測定可能ながん種を増やし、がん以外の判断の難しい疾患の測定も考えている。ネコや家畜などにも展開できれば」と話す。従来のDNAの変異検査とは全く異なるアプローチを取ることから、感度も高くその汎用性も期待が寄せられている。「エクソソーム及びmiRNAの働きは、様々な花を咲かせることができる。この研究を応用してイヌの処方食にも取り組んでいきたい」と更なる展望を掲げる。

DNAの変異ではなく、がん細胞から分泌されるエクソソームに着目

 

伴侶動物の福祉に貢献したい

同社は「Ark-Test」の開発で、「2024(令和6)年度多摩ブルー・グリーン賞」多摩ブルー賞 最優秀賞のほか、2024(令和6)年「東京ベンチャー技術大賞」特別賞を受賞した。「日本は、欧州に比べて伴侶動物の福祉が発展途上にあるが、こうした評価をいただいたことで世の中の動きに希望を持つことができた」と伊藤先生。「伴侶動物は民法上『物』として扱われ、災害時の避難所に入れない、飛行機では貨物室に預けられて事故の犠牲になるなどの不遇な状況に置かれている。1万年前からイヌと人間は一緒に共に生活しているが、未だに差別を受けている。受賞を契機に研究費の資金支援や業務提携につながれば、研究を発展させることができる。伴侶動物と飼い主たちに貢献していきたい」と意気込む。

「2024(令和6)年度多摩ブルー・グリーン賞」で多摩ブルー賞 最優秀賞を受賞

お話を伺った人

株式会社メディカル・アーク
代表取締役 伊藤 博さん
広報担当の幸(ゆき)ちゃん

企業概要

HP https://medical-ark.com
代表者名 伊藤 博
資本金 1,000万円
創業 2021年2月16日
社員数 6人

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