未来を創るたまの企業
国内外メーカーが高い信頼を寄せる
八王子発の精密加工技術
株式会社セキコーポレーション
[2025年06月 取材]
高度な精密加工技術で、世界のものづくりを支える企業が東京都八王子市にある。株式会社セキコーポレーションは創業以来70年以上にわたって、プレス部品と言われる小型精密金属部品(※1)を製造し、国内外の一流メーカーから高い信頼を獲得してきた。とりわけソニー株式会社のウォークマンやPlayStationといった世界的な製品の機構部品を手がけてきた実績は、その技術力の高さを物語っている。
同社の強みは設計から金型製作、プレス加工、塗装、組立まで一貫して対応できる生産体制にある。試作から量産まで柔軟に対応できるため、顧客のニーズに合わせて高品質・高精度な製品を提供する。また1980年代から海外にも進出してグローバルな生産体制を構築、競争力をさらに高めてきた。
常に時代の変化に挑戦し続ける同社の取り組みについて、八王子駅からほど近い場所に構える本社を取材した。
※1:金属板を金型で挟み込み、プレス機械で圧力を加えて特定の形状に成形する部品。自動車や家電など様々な製品に使われる。
事業の特徴
70年を超える歴史を持つ精密部品メーカー
創業は1948(昭和23)年、港区白金にて創業者・関重男さんが個人事業としてプレス工場「関製作所」を立ち上げたのが始まりである。当初は小さな町工場としてスタートしたが、技術力が評判を呼び、やがて精密機器分野へと事業領域を拡大。高度経済成長期の追い風を受け、1954(昭和29)年には株式会社に改組した。現在は八王子に本社機能と営業拠点を、山梨県南アルプス市とタイ、中国などに製造工場などを複数構える。
本社は八王子市明神町にある
年間200型を超える金型製作
経営視点を持つ異色の3代目
3代目の代表取締役社長を務める山木孝之さんは創業者の孫の配偶者にあたり、外部出身の経営者として2017(平成29)年に代表就任。ものづくりに対する敬意と経営的視点を併せ持ちながら、社内に新しい風を吹き込んでいる。大学卒業後、自動車部品大手の株式会社小糸製作所で中国市場向けの営業・部品供給業務に従事。その後は外資系IT企業やサイバーセキュリティ分野のトレンドマイクロ株式会社で、経営戦略、マーケティング、アライアンス業務を担当し、経営の現場で論理的思考とマネジメント力を培った。製造業での現場経験はなかったもののビジネススキルを高く評価され、2013(平成25)年に入社。先代に代わり代表取締役社長に就任すると、経営視点からの改善を次々に実行。社内では「失敗してもいい、まずやってみよう」と繰り返し発信し、社員の挑戦を後押しすることで、変化を恐れず常にアップデートを図る企業文化の醸成に注力している。
厳しい品質基準に応え続ける技術力
同社の主要取引先は国内外のメーカーであり、その数は約100社に上る。なかでも売上の8割程度を占めるソニー株式会社(以下、ソニー)は特別な存在で、長年にわたる戦略的パートナーである。1970年代半ば頃、それまで主に黒電話用の部品を製造していた同社では、黒電話の普及により市場が飽和し、次の成長の機会を模索していた。そうしたなか、社員が近隣にあったソニーのオフィスに飛び込み営業をかけたことが取り引きのきっかけとなった。当初製造したのはカセットデッキに使う部品で、その後はポータブルオーディオプレーヤーのウォークマンやディスクマン、さらに家庭用ゲーム機の「PlayStation」シリーズへと対応製品の幅を広げていった。革新的な製品を次々と世に送り出す企業の厳格な品質要求に応え続けたことで次第に信頼を築き、サプライヤー(※2)としての地位を確立。現在はソニーの戦略的パートナーとして、ミラーレス一眼カメラ「α(アルファ)」シリーズの本体部分に使用される金属部品の95%以上を製造する。
※2:原材料、部品、製品、サービスなどを他の企業に提供する役割、または提供する企業や個人
ウォークマン
ミラーレス一眼カメラ「α7C」
技術と人が支える現場力
顧客との信頼関係は、技術力の高さだけでは築けない。設計変更や生産スケジュールの調整といった突発的に発生する難題に、スピーディかつ柔軟に対応できる“現場力”と“人間力”こそが、長年にわたる取引を支える基盤となっている。精密プレス部品はステンレスや銅、アルミなどの金属を材料としており、その厚さは0.1ミリ程度と極めて薄い。わずかな歪みやズレが製品全体の性能に直結するため、0.01ミリ、時に0.001ミリ単位の精度が求められる。こうした超精密な加工を可能にしているのが、長年蓄積してきた金型設計のノウハウと技術力である。金型の多くは社内で設計・製作され、加工も自動化されたプレス機で行われるが、その運用には熟練の技術者の知見と感覚が欠かせない。彼らによって材料ロスが最小限に抑えられ、高品質を維持し、厳格な納期が日々守られている。そうして生産された数万点の精密部品は、カメラ、ハードディスク、自動車、住宅設備など幅広い分野の製品の内部で確かな役割を果たしている。
カメラ、ハードディスク、自動車、住宅設備など様々な製品の部品を製造
八王子発、グローバル企業を支える連携体制
国内と海外の売上構成比は現在、海外が8割を超える。世界的にグローバル化が注目される以前から、同社は世界市場を見据えてきた。1988(昭和63)年、初の海外拠点をシンガポールに開設した後、マレーシア、中国、タイと拠点を増やしてきた。現在は工場が中国とタイにあり、国内・山梨の工場と合わせると計8拠点で世界中に製品を供給する体制となっている(※3)。各拠点では現地採用を積極的に行っており、グループ全体で見ると日本人社員は最も少数派だ。それでも知識や技術の情報共有、研修や工場見学、各拠点でのイベントを通じた交流により、“顔の見える関係”が築かれている。「私たちの品質を支えているのはグループ全体でフォローし合える体制です」と代表取締役社長の山木さん。また本社のある八王子は、唯一の国内工場がある山梨にアクセスが良く、大学が多いため採用活動の面でも優位性がある。山梨の工場ではかつて、多摩地域の理系の大学を卒業しUターン就職を希望する学生を積極的に採用してきた実績があり、来年度から新卒採用を再開する方針だ。
※3:工場が山梨県の南アルプスと上野原のほか、中国の上海、常州、蘇州、タイのサラブリーにあり、貿易事務所がマレーシアのジョホールバルにある。八王子の本社と合わせて8拠点(2025年6月時点)
国内外に拠点を複数構える
海外では現地採用のスタッフが数多く働いている
トラブル時に真価を発揮する迅速な対応力と危機管理体制
製造業において、トラブルの未然防止と品質維持は最も重要な使命の一つだ。グループ全体が一丸となって平時から品質管理に取り組んでいるが、万一トラブルが発生した場合にも、迅速に対応できる体制を整えている。海外拠点で不具合が発生した際は、グループ内からエンジニアを即時派遣。現地での原因究明と再発防止策を講じて、被害を最小限に抑える。「最も避けなければいけないのは、お客様の生産ラインを止めてしまうこと。私たちの部品で問題が起きると極端な話、世界中でその製品が販売できなくなり、多大な影響を及ぼすことになります。また当たり前のことですが、お客様側にも責任者がいるからこそ“彼らの顔を潰さない”という強い想いを持ち、全社を挙げて対処にあたります。本来お礼を言われるような立場ではないのですが、事態収束後に”助かったよ“という声をいただくことも少なくありません」と山木さん。単なる製品提供にとどまらない信頼関係がうかがえる。さらに社内では「気付いた人が早めに報告する」「悪い報告ほど優先的に共有する」といった情報共有の文化が根付いており、これもトラブル予防や早期収束を支える重要な要素となっている。
迅速な対応力と危機管理体制で万一のトラブルに対応する
お話を伺った人
株式会社セキコーポレーション
代表取締役社長 山木 孝之 さん
企業概要
HP | https://www.seki-corp.co.jp |
代表者名 | 山木 孝之 |
資本金 | 8,000万円 |
創業 | 1954年2月15日 |
社員数 | 国内 100名/海外 450名 |